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<解説>SKJ総合税理士事務所
所長・税理士 袖山 喜久造 氏

【第5回】令和5年度電子帳簿保存法の改正と業務DX検討のポイント

令和5年度の税制改正では、納税者のDX化が促進されるように、納税者環境整備の一環として電子帳簿保存法(※1)(以下、「電帳法」といいます。)が改正されました。電帳法は、税法で書面による保存が義務付けられる帳簿や書類をデータで保存する際の法的要件を定めている側面と、電子取引(データで授受される取引情報)にかかるデータの保存義務を定める側面があります。

帳簿書類をデータ保存するためには、これまではデータの真正性や検索性を確保する厳しい要件が定められており、納税者の電子化の阻害要因とされてきましたが、近年は社会全体のデジタル化が進み、企業等の電子化が課題とされており、電帳法もこれまで数度にわたる規制緩和が行われてきました。本コラムでは、令和5年度の電帳法の改正項目について解説していきます。

※1:電帳法は正式には「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律」といいます。

I.電帳法の法令対応が必要な対象範囲

電帳法は、税法で保存が義務付けされている帳簿や書類をデータで保存する場合の保存方法の特例法として、平成10年(1998年7月)に施行されている法律です。税法で保存が義務付けされている書類は書面(紙)で授受される取引に関する書類のみですが、取引書類やその書類に記載される事項をデータにより授受した場合には、電帳法第7条の規定により当該電子取引データの保存が義務づけされています。

電帳法の法令への対応が必要なのは、帳簿書類をデータで保存する場合と、電子取引データの保存を行う場合の2パターンのみとなります。

このうち、帳簿書類のデータによる保存については、税法で保存が義務付けられている帳簿書類の全部ではなく、一部分でもデータで保存することができます。データで保存することとする部分を明確に区分できる最小単位からデータ保存の検討を行うことができますので、対象範囲を限定し、段階的に電子化の検討を行うこともできます。

電子取引データの保存については、事業者が電子取引を行った場合には必ず対応が必要となるので、自社で行われている電子取引については、そのデータの保存方法や保存要件への対応の検討をしなければなりません。

令和3年度の電帳法の改正により電帳法第7条で規定される電子取引データは、出力書面による保存方法が廃止されました。経過措置による宥恕規定も令和5年12月31日で終了しますが、令和5年度改正により令和6年1月1日からは新たな保存方法として、システム等の導入できないなどの相当な理由があれば出力書面による保存ができるようになります。ただし出力書面による保存をする場合には、当該電子取引データを保存し、調査官の求めに応じて提示や提出ができるようにしてくおく必要があります。一部の保存要件は免除されますが、データを保存することも必要になるためあまり効率的な保存方法とはなりません。令和5年中に電子取引データの保存に係る法令要件に対応できない場合などに出力書面による保存方法の検討をすることが現実的です。

【電子帳簿保存法の対応の範囲】

電子帳簿保存法の対応の範囲

II.令和5年度の電帳法の改正

令和5年度において電帳法が次の通り改正され、電帳法で規定される法令要件の緩和措置が行われています。また、電帳法で保存義務が規定される電子取引データについては、法令に対応できない納税者の救済をするための電子取引データの保存方法の見直しが行われました。

1.過少申告加算税の軽減の特例規定の改正

令和3年度の電帳法改正で導入された優良電子帳簿の利用している場合の過少申告加算税の軽減制度は、税法で備付け、保存が義務付けされている全ての帳簿を電帳法第8条第5項(優良電子帳簿)で規定される全ての要件を満たして入力及び保存をしており、かつ、事前に所轄税務署長に本規定の適用を受けたい旨の届出書を提出した場合に、税務調査において賦課される過少申告加算税の税率が5%軽減されるという規定です。(図「過少申告加算税の権限の特例制度」参照)

本規定は、令和5年度の改正において、この優良電子帳簿の範囲を税法で備付け、保存が義務付けされている帳簿の全部ではなく、一部の帳簿のみとすることで緩和する改正が行われています。(図「過少申告加算税の軽減措置の適用帳簿(法人税法)」参照)

本改正で、優良電子帳簿の範囲から除かれた帳簿は、例えば、「現金出納帳」、「当座預金出納帳」、「給与台帳」などが考えられます。

本法令は、令和6年1月1日以降に法定申告期限が到来する国税から適用されます。

【過少申告加算税の軽減の特例制度】

過少申告加算税の軽減の特例制度

【過少申告加算税の軽減措置の適用帳簿(法人税法)】

過少申告加算税の軽減措置の適用帳簿(法人税法)

2.国税関係書類のスキャナ保存に係る緩和措置

電帳法第4条第3項で規定する国税関係書類のスキャナ保存に係る保存要件のうち、「入力時情報の確認」、「入力者等の確認」の要件が廃止されます。さらに、相互関連性の確保の要件は、重要な書類に分類される取引書類のみの要件となり、一般書類は相互関連性の確保要件が廃止されます。

「入力時情報の確認」の要件は、証憑をスキャナ入力する際の入力機器の要件に従った入力がされているかを確認ができるように、証憑データから入力時の解像度情報、階調情報、書類の大きさ情報の確認ができることが要件となっていました。本要件は廃止されましたが、入力機器の機能要件は変更がないことから、引き続きスキャナ保存においては要件を満たす機器を使用して入力することが必要です。スキャナ保存においては、証憑書類に記載されている4ポイントの文字が認識できるように入力することが必要です。たとえ入力機器の要件を満たしてスキャニング(或いは撮影)するとしても、4ポイントの文字が認識できなければ適正な入力がされていないことになりますから注意が必要です。

「入力者情報の確認」の要件については、入力データと原本を確認した者(入力者)又はその者を直接監督する者の情報が確認できることが要件となっていました。本要件は廃止されましたが、あらかじめ社内ルールで定められた手順に従った入力を行うことは必要です。スキャナ保存の手順を定めた事務処理規程の整備や運用は引き続きスキャナ保存の要件となりますので、取引書類を誰がどのように入力し保存するのかを検討し、適正な入力や確実なスキャナ保存ができる社内体制を整備する必要があります。

「相互関連性の確保」要件は、スキャナ保存した取引書類と関連する仕訳情報を1対1で関連付けする要件となりますが、この要件は請求書、領収書や納品書など取引に直結する重要な書類に限定された要件となります。見積書、注文書、検収書など一般書類に分類される書類については相互関連性の確保を行わなくてもスキャナ保存を行えるようになります。

改正法令は、令和6年1月1日以降行う国税関係書類のスキャナ保存から適用されます。令和5年度改正後のスキャナ保存の要件は、「図「スキャナ保存:システム等の要件と運用要件 (令和5年度改正後)」のとおりとなります。

【国税関係書類のスキャナ保存の保存要件の緩和】

国税関係書類のスキャナ保存の保存要件の緩和

【スキャナ保存:システム等の要件と運用要件(令和5年度改正後)】

スキャナ保存:システム等の要件と運用要件(令和5年度改正後)

3.電子取引データの保存方法の見直し

令和3年度の改正前は電子取引データを出力した書面を整理して保存し、当該書面書類を調査官の求めに応じて提示や提出ができるように保存している場合には、電子取引データの保存は不要とされていましたが、令和3年度の改正では、電子取引を行った場合の当該電子取引データの出力書面による保存方法が廃止されました。本改正は、令和4年度改正により宥恕措置が取られ、令和5年12月31日までは、データで保存できないことについてやむを得ない事情があると認められた場合には、引き続き当該電子取引データを出力書面により保存することが認められています。

令和5年度改正では、本宥恕措置は、令和5年12月31日で終了することとし、令和6年1月1日からは新たな保存方法として、以下の改正がされています。

(1)出力書面による保存方法の容認

新たな保存方法として、システム等の導入ができないなど相当な理由がある場合には、電子取引データを調査官の求めに応じて提示・提出ができるように保存されていることを条件として出力書面による保存を認めることとなりました。要するに、電子取引データを書面に出力して保存することは認めるものの、データは速やかに提出ができる程度に保存することも必要となるということです。令和3年度の改正前のように、出力書面を整理保存している場合にデータ保存が不要となるわけではないので注意が必要です。

出力書面の保存を行う場合の電子取引データの保存に当たっては、取引年月日ごとや取引先ごとなど、整然とした形式で明瞭な状態で保存し、調査官の求めに応じて提示又は提出ができるように保存することが必要です。この場合の、電子取引データの保存に当たっては、真実性の確保要件(措置要件)や検索機能の確保要件は免除されます。

(2)検索機能の確保の見直し

判定期間(※2)において売上高が5千万円以下の事業者については、税務調査において調査官の求めに応じて当該電子取引データの提示又は提出できるようにしている場合には、検索要件の全てを不要とすることとされました。改正前の規定においては、売上高1千万円以下のとされていた事業者の範囲が拡充されています。

※2:判定期間とは法人であれば2事業年度前、個人であれば2年前の課税期間が該当し、当該判定期間における売上高で判定する。

(3)保存担当者情報の確認要件を廃止

電子取引データの保存に当たり、真実性の確保要件(措置要件)のうち、電子取引データの授受後にタイムスタンプを付与することにより対応する場合の要件であった保存担当者情報を確認できるようにしておく要件が廃止されました。この改正は、国税関係書類のスキャナ保存の保存要件の改正において、入力担当者情報の確認の要件が廃止されたことに伴うものです。

書類のデータ保存においては、書面で受領した書類でもデータで受領した書類でも書類の授受後、業務サイクル後速やか(約67日以内)にスキャナ保存(電帳法第4条第3項)の要件を満たすシステムに、当該スキャナ保存データ又は電子取引データを保存する場合に、同様の運用ルールにおいて保存することが可能となり、データにより書類の一元管理を行うことが可能となります。

【電子取引データの保存方法の見直し】

①システムの対応が間に合わなかった事業者等への対応

・電子取引データの保存を法令要件に従って保存できない相当な理由がある事業者等については、新たな猶予措置を設けることとされた。

・電子取引データの出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力したものに限る)により保存し、当該書面を調査官の求めに応じて提示又は提出することができるようにしている場合には、電子取引データの保存に当たっては、真実性の確保要件、検索要件は不要とする。

・現行の経過措置(令和4年度改正)は、適用期限(令和5年12月31日)で廃止。

②検索機能の確保要件の見直し

・判定期間において売上高5千万円以下の事業者については、電子取引データのダウンロードの求めへの対応を前提として検索機能の確保要件を不要とする。

③タイムスタンプで措置する場合の保存担当者情報の確認要件を廃止

・電子取引データの保存要件のうち、真実性の確保要件(措置要件)をタイムスタンプを付与することにより対応する場合の、保存担当者情報を確認できることとする要件を廃止。(スキャナ保存の要件で入力者情報の確認要件を廃止した改正との整合性)

令和6年1月1日以降の電子取引データについては、電帳法施行規則第4条第1項の規定により保存することが必要となります。(図「電子取引データの保存要件(令和5年度改正後)

【電子取引データの保存要件(令和5年度改正後)】

電子取引データの保存要件(令和5年度改正後)

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