会計コンサルによる法要件解説
公開日:
<解説>株式会社ビジネスブレイン太田昭和
アカウンティング・コンサル本部 CPA室
矢野 敬一 氏(フェロー 公認会計士 税理士)
【第8回】令和5年度 電子帳簿保存法の改正 一問一答および通達について
令和5年6月30日に、電子帳簿保存法の改正一問一答および通達が公表されました。
改正内容について解説いたします。
1.電子取引の電子保存
電子取引の電子保存についての改正には、皆さん注目されているのではないでしょうか?
令和3年度の税制改正で、電子取引を書面に出力して紙保存できることが禁止され、電子取引の電子保存が義務化されました。しかし、令和3年12月末に宥恕措置が公表されました。宥恕措置とは、実態としては、電子取引の電子保存の義務化について、法律は制定されているものの執行を猶予するという措置と理解して良いと思います。この宥恕措置は令和5年12月末までの2年間という期間が定められていました。
では、今年度の税制改正では、どの様になったでしょうか?
まず、電子取引の出力書面の提示・提出の求めおよび電子取引データのダウンロードの求めに応じることで、日付・取引先・金額による検索機能の確保が不要になります。ただし、書面を日付・取引先毎に整理しておくことが必要です。また、事前に書面を出力して整理しておくことは必ずしも明文上は求められておりませんが、税務調査ですぐに整理している状況を説明できなければ、要件を満たしていないと判断されて、検索要件を求められる可能性には十分に注意する必要があります。この出力書面の管理に関する要件は、意外とハードルが高いという印象を持っています。
次に、猶予措置が定められました。つまり、相当の理由があると認められる場合、電子取引の出力書面の提示・提出の求めおよび電子取引データのダウンロードの求めに応じることで、日付・取引先・金額による検索機能の確保だけではなく各種の保存要件に沿った対応は不要で、電子取引については単に保存するだけで良いというものです。
ここで「相当の理由」とは、対応が困難であれば基本的に認められる概念で、広い概念です。例えば、「電子取引の要件に従って保存するためのシステムの整備が間に合わない等の事情」も認められます。ただし、「システム等の整備が整っており、電子取引の保存要件に従った保存が可能な場合」や「何ら理由なく保存要件に従って電子取引を保存していない場合」には認められないとの記載があります。
宥恕措置の場合は、「やむを得ない事情」がある際は電子取引を書面に出力して保存することが認められておりました。
両者を比較すると、例示として殆ど同じ表現が使用されており、両者の意味するところに大きな違いはなく、「相当の理由」については該当しない場合が例示されているので、むしろ、「相当の理由」の方が狭いという印象すら感じます。
宥恕措置の場合は、行政がその法の執行を止めるという例外的な対応のため、本来は「やむを得ない事情」という例外的な状況がある場合のみ認められるという表現を用いざるを得ないものの、「やむを得ない事情」の範囲を広範に認めているという、極めて苦心した制度となっています。つまり、「やむを得ない事情」という用語とその意味するところがアンマッチだと言えます。
今回は、法改正を実施した上の制度なので、「相当の理由」という用語と、その内容がマッチしている制度と言えるのではないでしょうか?
では、今回の電子取引の法改正は、どの様に捉えたら良いでしょうか?
一旦は、電子取引の電子保存を義務化して、各社のデジタル化を後押しする制度を構築しました。しかし、各社のデジタル化が想像以上に進まない状況に鑑み、法律の施行直前に「宥恕措置」を公表し、制度開始の先延ばしを決めました。そして、今年度は猶予措置等が定められました。一挙に各社のデジタル化を促進するのではなく、漸進的に後押しするスタンスに変わったと捉えています。変化の速度を緩やかにしたと言えると思います。
今年度の税制改正における「出力書面を整理した上での提示等をした場合の、電子取引の電子保存の要件緩和」については、将来的には無くなり得る制度という印象も持っています。
2.利便性の向上
①優良な電子帳簿
帳簿についても改正がされました。優良な電子帳簿という制度がありますが、あまり普及していない制度と思われますが、今回はその利便性が向上するような改正となっています。
令和3年度(2021年度)税制改正で「優良な電子帳簿」と「優良な電子帳簿以外の帳簿」が設けられ、「優良な電子帳簿」とは、ほぼ従前の電子帳簿の要件を満たせば、過少申告加算税(電子帳簿に記録された事項に関し修正申告等があった場合の過少申告加算税 )の5%が軽減される制度です。
過少申告加算税が軽減されるので、明確な導入効果が保証されていると言えます。
しかし、従前は、「すべての帳簿の電子化」しなければ、「優良な電子帳簿」とは認められませんでしたが、今回の税制改正で、申告に直接結びつきやすい経理誤り全体を是正しやすくするという観点から、帳簿の範囲が合理化・明確化されました。
例えば、現金出納帳・当座預金出納帳・賃金台帳(法人税のみ)については、電子化していなくても、「優良な電子帳簿」と認められることになりました。
②スキャナ保存制度
利便性が増すような改正がされました。
- 記録事項の入力を行う者等の情報を確認できるようにしておく必要なし。
- スキャナで読み取った際の解像度・階調・大きさの情報の保存は不要。
- 帳簿との相互関連性を求める書類は重要書類に限定。
この3点は、筆者は重要性が劣る要件と捉えてきましたが、廃止されることとなり、合理的な改正がされたと言えます。
3.まとめ
この様に、今回の改正で、電子帳簿保存法の利便性が高まり、利用しやすくなりました。
また、電子取引の電子保存については、義務化に向けて緩やかに推移することになる様です。これらの改正をどの様に考えれば良いのでしょうか?
電子取引の電子保存の義務化が少し猶予され、電子保存より出力書面の保存・管理を重視し、書面を厳格に管理する道も作られました。そして、電子保存をする利便性が向上しました。
つまり、電子保存を行いペーパーレス化を推進する道もできただけではなく、厳格に出力書面で管理する道もでき、どの道を選ぶかは、各社の判断に委ねられたと言えます。
実際に、各社の状況としては、いち早くペーパーレス化を進めている会社、従来通り出力書面による管理を継続している会社、また電子取引の電子保存だけを行うものの出力書面の管理を継続している会社と、バラツキが生まれています。
各社の判断を尊重する自由度が生まれたといえますが、逆に言えば、各社毎に対応の仕方に差がつき始めていると言えます。
ペーパーレス化をすすめることにより、業務スピードを格段に向上させ(承認プロセスの短縮、検索業務の迅速化)、業務の属人化を防ぎ書類の紛失を極小化し情報の見える化を促進することによりコンプライアンスを向上させ、また、利便性を向上させることができます。一言で言うと会社の競争力を向上させることが出来ます。
従って、各社毎にペーパーレス化の取り組み方に差異がうまれているということは、各社毎の競争力に差がつき始めていることになると考えています。
法律に強制されるのではなく、各社がペーパーレス化を主体的に進め、各社自らの判断で自らの競争力を確保していくことが求められるようになったと言えるのではないでしょうか?
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