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<解説>セイコーソリューションズ株式会社 DXソリューション本部 担当部長
一般社団法人デジタルトラスト協議会(JDTF)推進部会長
柴田 孝一 氏

【第2回】記録のリスクとアナログ/デジタルでの対策

今回は、なぜ人は記録するのか?から、情報の真正性を保証することの意味とデジタルだから簡便かつ確実に残すことができるトラストサービスについて解説します。

1.なぜ人は「記録」するのか?

「人間は、忘れていく生き物である」
だから幸せな場合も、ままありますが、たいていの場合は、「そんなこと言っていない」「記憶にございません」では、信用を無くしてしまい、人間社会では致命傷ですね。

さらに、そのとき、その場で、なんらかの合意ができたことは、その時、その場にいた関係者のみならず、将来関係してくる人にまで影響を及ぼす場合があることを忘れてはいけません。
当事者の記憶のみに頼ってしまうと、将来・未来に、損害を被ったり、信用を失墜してしまったりする可能性もあるのです。

なので、残したいコトを書き残すこと=「記録」することで、一過性の事象を不偏なものにし、時空間を超えて保持できるようにすることが求められてきたのだと思います。

「記録」は、ISO 15489-1:2016 JIS X0902-1:2019において、定義されています。

3.14 記録[record(s)]
法的な義務の遂行において又は業務の処理において、組織又は個人によって証拠及び資産として作成、受領及び維持された情報。
information created, received and maintained as evidence and as an asset by an organization or person, in pursuit of legal obligations or in the transaction of business

ようするに、記録とは、証拠および資産となる情報であって、その目的は証拠保全です。ヒトが社会生活の中で、培ってきた大発明であり、知恵の結晶ですね。

2.記録に係るリスク

記録は、事象が整理されて、目に見える符号として時間と空間を超えて保持される情報です。
そのときの書き手によって情報がフィルタリングされ、将来の読み手によってその情報の解釈がされる。
すなわち、記録となることで、情報は発信者本人の意思から遊離し、ひとり歩きを始めるということです。
「ひとり歩きをしてしまう情報」を記録管理という観点で、時系列で、どのようなリスクがあるのか、を図1に示しました。

記録管理におけるリスク
図1 記録管理におけるリスク

「記録管理」は、ISO 15489-1:2016 JIS X0902-1:2019において、定義されています。

3.15 記録管理(records management)
記録の作成,受領,維持,使用及び処分の効率的で体系的な統制に責任をもつ管理領域。
記録形式で,業務活動及び処理の証拠及び情報を,捕捉及び維持する一連の作業を含む。
field of management responsible for the efficient and systematic control of the creation, receipt, maintenance, use and disposition of records, including processes for capturing and maintaining evidence of and information about business activities and transactions in the form of records

時系列で、リスクが異なることがわかると思います。
リスクが異なるということは、それぞれで対処の方法も異なるということです。

3.アナログ時代のリスク管理

アナログの社会では、残せる情報量に限りがあることもあり、じっくりと時間をかけて精査され、さまざまな形で、唯一性のある媒体に刻まれることで残されてきました。
最近では、紙面に消えないインクで書き記し、さらに唯一性があるだろうハンコを使って消えないインクで印影を付すことで、情報の責任を明記する手法がとられてきました。
これも、工業が発展したことで、筆記そのものが、コンピュータのキーボードをたたくことで誰が書いても同じになり、唯一性が期待されていたハンコも容易に作成できる時代になってしまいました。記録管理の歴史は、まさに改ざんやなりすましのリスクとの闘いですね。
アナログの世界では、それを「規程・運用」という、ヒトによる判断と管理でなんとか回避してきたのですね。対面・書面・押印での運用です。

アナログ記録のリスク対応
図2 アナログ記録のリスク対応

4.デジタル時代のリスク管理

これまでのアナログの世界では、「良い加減」に、情報が整理されて残され、「良い加減」に解釈されて社会は回っていました。
ところが、あらゆる情報をそのまま残すことができてしまう、デジタルの世界では、この「良い加減」が許される範囲が、どんどん狭まってきています。
なんでも、疑問に感じたら、すぐスマホを介して、クラウドに聞く
そして、それが正しいか否か、が今話題になっていますね。ChatGPTが良い事例です。
今は、とてもいい加減な情報を提示されて、「それは違うでしょ」と人間が判断できていますが、それも時間の問題でしょう。
だんだん、洗練された情報になって、まさに「情報がひとり歩き」する時代が目の前にやってきているのです。
デジタル社会では、アナログ時代に、連綿と築いてきた様々なパッチによる記録管理を、根底から見直すことが急務です。
デジタルが実現したインターネットによって、

① 瞬時に世界中のEveryoneへの広報
② 特定関係者Someoneへの狭報、そして
③ SNSによる個人間での会話

が、共存する社会になりました。
さらに、そこで流れる情報をコンピュータが収集し、変換して提示する2次・3次の膨大な情報をヒトやコンピュータが利用する社会が始まっているのです。それがSociety5.0です。とっても便利だけど、とても怖い社会です。
入手する情報がアナログ時代と根本的に異なるのです。

  • 情報の信憑性:だれでもいつでもどんな情報でも生成・発信できてしまう。
  • 情報の唯一性:コピーが簡単にできてしまう。

このことを大前提に記録管理のリスク対策をしなくてはなりません。

安心してください、これぁ大変だ!なんて思わなくても良いのです。
デジタルが醸し出したこの社会、デジタルだから解決できるのです。
加工された中流、下流ではなく、可能な限り上流、すなわち事象の生成時点で、信頼するための属性を加えて情報に原本性を持たせることができれば、簡便に管理ができるようになるのです。
デジタルなので、原本性を持たせることもできるし、管理も機械が実施できるようになるのです。

デジタルだから可能な記録のリスク対策
図3 デジタルだから可能な記録のリスク対策

5.トラストサービス

「信頼するための属性を加えて情報に原本性を持たせる」これが、トラストサービスの役割です。
原本性を持たせることは、アナログ時代では、紙に消えない文字を書き記すことでなんとか維持してきましたが、ご承知のようにすでに限界ですね。
デジタルでは、それをタイムスタンプが賄います。
対象情報のHash値に信頼のおける正しい時刻を加えてデジタル署名することで、その時、その情報があったことを数学的に証明することで、対象情報の確実な存在証拠となります。
また、対象情報が誰の意思で作成されたのかは、電子署名、どの組織が作成したものかは、eシールを利用することで、残すことができます。
これらの、電子署名、eシール、タイムスタンプというトラストサービスを利用することで、対象情報の原本性を担保することができるのです。
そして、原本性が確認できる情報は、コピーしても変化はなく、対象情報の原本性の確認はできます。
情報の改変を避けるため、唯一である紙原本を必死に護るというアナログ時代とは、明らかに対応の仕方が変わるのですね。

五感で相手を信用する社会は、コトバによるコミュニケーション手段から始まり、文字、単語、記録、そしてさまざまな媒体を発明して発展してきました。
デジタルという武器を手にした我々は、正確に情報を継承してPDCAサイクルを回すために、五感に頼ることなく、これまでとはまったく異なる社会を築いていくことになるのだと思います。

トラストサービスの担う役割は、社会生活を営むうえでの、水道水、安定供給される電力、クリーンな空気と同様に、基盤として安心・安全をデジタル環境で提供することです。
美しいメロディを愉しむため、低層からしっかりと安定して響きを支える通奏低音なのです。

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