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<解説>株式会社ビジネスブレイン太田昭和
アカウンティング・コンサル本部 CPA室
矢野 敬一 氏(フェロー 公認会計士 税理士)

【第1回】会計帳簿データ保存のシステム対応ポイント

「電子帳簿保存法」の適用状況と要件の概要

――「電子帳簿保存法」を適用する企業は年々増加している

国税庁は毎年、「電子帳簿保存法」に係る電磁的記録による保存等の承認状況を公表しています。
図1-1のグラフをご覧ください。2016年事務年度末(2017年6月30日)時点では、累計承認件数が188,355件、前年度比11,175件(6.3%)増加しています。企業の会計帳簿等に関連する法人税・消費税関係は139,142件、前年度比7,906件(6.0%)増加しています。なお、書類のスキャナ保存は1,050件、前年度比670件(176.3%)増加していますが、2015年、2016年の要件緩和の法改正に伴い、ようやく1,000件に届いたところです。
毎年1万件程度の累計承認件数の増加は、帳簿が多くの割合を占めているようです。書類より帳簿のほうが関係する部署が少なく、電子データ保存による効果が明確であることから、多くの企業は、まずは帳簿から電子データ保存を検討するためと考えられます。今後も引続いて件数は増加してくのではないでしょうか。

電磁的記録による保存等の承認数は2006~2016にかけて増え続けている
図1-1 各年度末の累計承認件数 年は事務年度(当年7月1日~翌年6月30日)を示す
(出典:国税庁の報道発表資料、統計年報書資料)

――会計帳簿の電子データ保存に求められる要件

会計帳簿の電子データ保存に求められる税務上の要件は、「電子帳簿保存法」や関連する施行規則、取扱通達などに定められています。要件の概要をみてみましょう。

会計帳簿の電子データを保存する場合には、電子データの「真実性」と「可視性」を確保するために、5つの保存要件をクリアする必要があります。下記の表に要件の概要を示しています。

保存要件 概要
1 訂正・削除履歴の確保
  • 訂正加除できないか、訂正加除できる場合、訂正加除の履歴を残して確認できること
2 帳簿間の相互関連性の確保
  • 紙の帳簿書類と同様に、例えば仕訳帳と総勘定元帳といった関連する帳簿間のデータが照合できること
3 システム関係書類等の備付け
  • 帳簿データを作成する上で使用するシステム関係の仕様書、事務処理マニュアル等の関係書類を備付けすること
4 見読可能性の確保
  • ディスプレイやプリンタなどによって、帳簿データを整然とした形式で明瞭な状態で速やかに出力できること
5 検索機能の確保
  • 取引年月日、勘定科目、取引金額等の帳簿の種類に応じた主要な記録項目を検索条件に設定できること
  • 日付と金額については範囲指定ができること
  • 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること

図1-2 会計帳簿の電子データの5つの保存要件

なお、紙・電子の媒体を問わず法定帳簿に求められる要件、例えば、「法人税法施行規則」等に定められている帳簿保存期間や帳簿記載項目についても、当然に満たす必要があります。

今回は、実務上課題になりやすい次の保存要件を深堀りして、システム対応策を考察します。

  • 訂正・削除履歴の確保
  • 長期保存
  • 帳簿間の相互関連性の確保
  • 見読可能性の確保

訂正・削除履歴の確保

――集約仕訳を仕訳帳・総勘定元帳に記帳する場合、個別取引データの保存も必要

法人税施行規則では、仕訳帳・総勘定元帳は「すべての取引」を仕訳・整理計算する帳簿と定めています。そして、電子帳簿保存法施行規則」では、帳簿の記録事項に訂正又は削除を行った場合には、訂正・削除の事実及び内容を確認できることと定めています。これらの要件から、仕訳帳・総勘定元帳を電子データ保存する場合には、「すべての取引」について訂正・削除履歴の確保要件を満たす必要があります。

業務システムの個別取引データを集約した「集約仕訳」が仕訳帳・総勘定元帳に含まれている場合には、注意が必要です(図2-1参照)。仕訳帳・総勘定元帳に記載される「すべての取引」についてデータの訂正・削除履歴を確保するには、集約仕訳の内訳である業務システムの個別取引データの保存が必要です。保存方法には、電子データ保存、出力書面保存のいずれも認められています。

業務システムの個別取引データを集約して会計システムで保存するシステムの例
図2-1 業務システムの個別取引データを集約して会計システムで保存するシステムの例

長期保存

――電子データを長期保存することの悩ましさ

業務システムの個別取引データを電子データ保存する場合には、約10年の長い期間にわたることを念頭に置いて、業務システムのパフォーマンスへの影響や業務システム再構築時の影響を考慮して、システム対応策を検討することが重要です。

一般に、上場企業のような大企業の場合には、販売明細データや購買明細データの件数は非常に多くなると思われます。過去データを長期間、業務システム上に残して保存するには、日常業務利用時のパフォーマンス低下を回避するための対策が必要になるかもしれません。対策には、たとえば、大量データ処理に適したシステム構成にすることや、過去データを別DBに移動して帳簿照会・出力可能な機能を追加することなどが考えられます。業務システムが事業や業態ごとに別々に構築されている場合には、集約データを作成している業務システム全般にわたって、時には広範囲に対策が検討されることになるでしょう。ただし、投資対効果に対する疑問やパッケージシステムの場合の改修可能性といったハードルが存在する点は否めません。

また、将来に業務システムの再構築を行う際には、①旧システムの帳簿データを新システムにデータ移行する方法、②帳簿保存期間が終了するまでの間、旧システムを継続運用する方法のいずれかの方法で、保存期間中の帳簿データを保存することが求められます(図2-2参照)。①のデータ移行の場合、旧システム・新システム間のデータモデル等の相違から移行できないケースは対応できません。移行可能であっても、帳簿数に比例して移行コストが発生します。②の旧システム継続運用の場合には、旧システムの保守・運用コストが継続して発生します。もちろん、新システムにも電子データ保存の仕組みを用意する必要があります。
個別取引データを業務システム上に長期保存する場合の要求は悩ましいものであります。

システム再構築における旧システムの帳簿データの保存方法
図2-2 システム再構築における旧システムの帳簿データの保存方法

--業務システムではなく、電子帳簿保存システムで保存する

長期保存対策の一案として、業務システムの外に個別取引データを保存する方法があります。

たとえば、業務システムの帳簿データそのものをデータ連携して電子帳簿保存システムに保存するシステム体系が考えられます(図2-3参照)。業務システムにおける帳簿データの記録・作成から電子帳簿保存システムにおける保存まで、一貫してシステムによりデータが作成される体系を構築するイメージです。

電子帳簿保存システムに個別取引データを保存することによって、業務システムのパフォーマンスや再構築の問題をクリアできます。

電子帳簿保存システムを利用した帳簿データ保存の例
図2-3 電子帳簿保存システムを利用した帳簿データ保存の例

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